つらつらと

「どこにも…行かないよね?」


そう私は問いかけた。
前にいる男…私の父は振り向き「大丈夫だ、必ず戻ってくる」と、言った。


その言葉を信じて私は父を見送った。


ずっとずっと信じ、待ち続け―――そんな私にかけられた声。


「どこにも…行かないよね?」


それはあの時自分が父に向かって言った言葉。
その声が聞こえた方を向くとあの時の私と同じ背丈の子供。
その子供は不安そうに私を見つめている。
その不安を和らげるように笑みを浮かべ―思った。


あの時の父も同じ気持ちだったのかと。
ただ心配させたくなかっただけではないかと。


だから私はあの時の父と同じ言葉を伝えようとし、やめた
その言葉の結末がどうなるかは知っている。
だから私は
「大丈夫、例え隣に在れずとも、例え姿が見えずとも私は側にいる。側でお前を見守り、護っている」と、伝えた。


そして子供へ背を向け、私は踏み出した。
あの時の父と同じで違う、二度と戻って来れない私だけの旅路へ――